煙草1本分の日陰
真っ昼間の甲板でグッスリと眠りこけている馬鹿が居る。
暑くねぇのかな…そんな事を思う。
お日様は見事に真上に輝き、瞳を閉じていても矢張り眩しいのか時々瞼がピクピクと動く。
どうせ起きやしねぇだろ、とは思い乍ら
それでもユックリと足音を忍ばせて近付いてみた。
額に薄らと汗をかいていて
太陽を受けて、キラキラと光っている。
暑い。
甲板に立って居るだけでも、とても、暑い。
(流石の黒スーツ。ガッチリと太陽光線を吸収してやがる)
コイツのシャツは白いから平気なのかな?
いや、でも腹巻きは有り得ないだろ。
ズボンは俺と同じに黒いってのに。
コイツ、良くこんな所で眠れるよなぁ。
ポケットから煙草を取り出し火をつけて、ユックリと紫煙を吐き出す。
また、瞼が幽かに痙攣した様な動きをみせた。
矢張、どう考えてもコリャ眩しいって事だよなぁ?
汗かいてるし。当然暑い訳だよな?
つぅか眉間に皺寄ってんじゃんか。
それでも寝てんだよな、この馬鹿。
眉間に皺寄せて。
額に汗かいて。
こんな暑い所で。
馬鹿だなぁ。
その間抜け面をもうちょっと良く拝もうと思って
軽く腰を曲げて顔を覗き込んだ。
自然、この馬鹿の顔に影が差して。
笑った。
眉間に刻まれた皺が緩く綻んで
キツク結ばれていた瞼が綻んで
なんだか薄らと
笑った様に、見えた。
…………。
矢張、どう考えてもコリャ眩しかったって事だよな?
汗かいてるし。当然暑いんだよな?
それでも寝てんのかよ、この馬鹿。
眉間に皺寄せて。
額に汗かいて。
こんな暑い所で。
馬鹿だなぁ。
ちょっと影差して。
笑っちゃってんの。
…馬鹿、だなぁ。
真っ昼間の甲板でグッスリと眠りこけている馬鹿が居て
あんまりにもあんまりな間抜け面だから
この煙草一本分位だけ
その馬鹿面を眺めて居ようと、決めた。