当店はセルフサービスとなっております

クソコックと喧嘩をした。
全くいつも通りで、百済ない話だ。

「なぁゾロ。俺の事、好き?」
「馬鹿だなクソコック。勿論大嫌いだぜ?」
「あーあーもー素直じゃねぇなぁクソマリモ。照れるなよ可愛い子ちゃん?」
「珍しく俺が素直に答えてやってるんだから納得しとけよグル眉」

むぅ…っと膨れる事数秒。
悔しげに口元の煙草を噛み締めながらサンジが呟いた。

「…ったくよぉ。俺のを旨そうに銜えこんでる時はあんなに素直なのによ…昨夜だって…」

サンジの言葉はここで途切れた。
正しくは、続けられなかっただけだが。
俺の右ストレートが鳩尾に見事にクリーンヒットしたから。

「ゾ…っ!てっめぇこの野郎ッ!」
「馬鹿につける薬がないか、チョッパーに相談した方がいいと思うぜ?」



それが一週間前の話。
全くいつも通りで百済ない、そんな喧嘩。
…だったハズ、なのだが。

それから一週間、サンジは俺と口を聞かない。
触れても来ないどころか目線も合わせない。
俺を見ている気配はするけれど振り向くと目を逸らす。
俺が声をかけようとすると急な用事を思い出し逃げる様に立ち去る。
ナミやルフィへの伝言で俺に言葉を伝える。
「あたしはアンタ達の伝書鳩じゃないのよ!」
とうとうブチ切れたナミに言い付けられ渋々とキッチンの前に立った。
全く面倒臭ぇ…。こんなのだって「いつも通り」じゃねぇか、と心の中で悪態を付く。

「おいクソコック。居るんだろ」
意を決してキッチンのドアを開け、話しかける。
カチャ、カチャ…と、朝食の後始末らしく、皿を洗うサンジは振り向かない。
「…聞こえてるんだろ?返事くらいしたらどうだ」
「……なんだよ」
分りやすすぎる程の不機嫌。振り向く気配すらない。
「酒くれよ」
「……真っ昼間っから何言ってんの?アル中クソマリモ」
「五月蝿ぇな。一杯くらいいいだろ」
「…当店はセルフサービスとなっております。クソお客様」

いつも通りだけれど、拗ねすぎだ。
毎度毎度同じ事の繰り返しで、本当にコイツの頭につける薬をチョッパーに相談したくなる。
…まぁ、いつも通りで、折れてしまう俺も相談すべきかも知れないが。

「そうかよ、分かった」
ツカツカと室内に入り、棚の上から馴染みの壜を一本取り出して煽る様に飲み込んだ。
そのままキャップを閉めた壜を乱暴に棚に戻し、シンクに立つサンジに近付く。

「おい」
「…なんだよ。気が済んだらさっさと消えろよ。目障りだ」
「おい。振り向けよクソコック」
「嫌だね」

振り向くどころか顔を見せまいとする様にサンジが視線を反対方向に逸らすから。
その柔らかな頬を両手で挟み込んで無理矢理に視線をあわせた。
「…、ゾ…っ」
「…『セルフサービス』、なんだろ?」
そう言って、そのまま強引に口付ける。
気持ちかさついたサンジの唇を舐めるとわずかに開いた隙間から舌を捩じ込んだ。
歯列をなぞり舌を絡めて、軽い水音とともに唐突に離した。
驚いてポッカリ見開いた瞳と口のままサンジが俺を見詰めている。
そんな表情のまま、ユックリとサンジが言葉を発した。



「なぁゾロ…。俺の事、好き?」
「馬鹿だなクソコック。勿論大嫌いだぜ?」
「あーあーもー素直じゃねぇなぁクソマリモ。照れるなよ可愛い子ちゃん?」
「納得出来る答えが欲しいなら言わせてみたらどうだ?グル眉エロコック」
「…へへっ」

ややあって、なんだか酷く幸せそうに微笑んで居るから。

…全く「いつも通り」で面倒臭ぇ…
そうやって心の中で悪態を付いて、もう一度サンジに口付けた。