否定しあう僕ら
キン、と。
張り詰めた冬の朝の空気は鋭い。
まるで彼女の心のようだ、と。思う。
街道を臨む障子を開け放し、なんとはなしに外を眺めていた。
空気は冷たく、まだ起きやらぬ街を静かに包み込んでいる。
ふ、と吐き出した息の白さに、まだ、春の気配は無い。
昨晩、街へ情報調達に出ていた梅喧がこの宿に戻ったのは夜半すぎで。
目に見える程の苛立ちと、焦躁を露にした彼女に酒を勧めて。
何杯目かの盃を煽った彼女は紫煙を吐き出しながら呻く様に呟いた。
俺は聞こえなかったフリをし、言葉を彼女の唇から奪い、飲み干した。
「俺は、女じゃない」
アンタ、立派に女だよ。
「捨てたんだ」
ならば、俺が拾い上げてアンタに与えてやる。
「俺の目的は、あの男、だけだ」
その目的ごと。振り向かないアンタを抱き締めてやろうか。
「逃げる訳には…いかない…」
アンタはいつでも真直ぐあの男を見詰めていて。
俺に気付かないようなフリをしているけれど。
「俺に構うな」
でもアンタ、俺と話してる。
「付いてくるんじゃねぇよ。うっとおしいヤツだな」
でも、アンタの歩調が弛んでる事を。俺は気付いてるんだぜ。
「お前みたいな、甘えた餓鬼…」
アンタみたいな、意地っ張りの天の邪鬼
「…大っ嫌いさ…」
「…っん」
吹き付けた風が部屋を横切り、アンタが身じろぐ気配がする。
誰よりも可愛く無くて可愛らしい。
誰よりも漢らしくて女らしい。
誰よりも強くて弱いアンタが。
大好きで、誰よりも大嫌い。
きっとまた彼女は
「お前みたいな甘ちゃんでお気楽な馬鹿は嫌いだ」
って、言うから。
「奇遇だねぇ姐さん。俺もアンタみたいな天の邪鬼な可愛い子ちゃんは大嫌いさ」
そう、呟いてやろうか。
大好きだから。
アンタが泣かない様に。
アンタが立っていられるように。
俺の気持ちも、アンタの気持ちも。
沢山の言葉で否定してあげる。