アイ

「その眼は見えているのですか」
ライドウが雷堂の傷見据え乍ら問う。

「貴様には関係なかろう」
「それはどうでしょう。…ねぇ雷堂、見えているのですか」
「今は見える」
「今は。それでは、以前は?」
「見えなかった。しかし今は見える。問題は無かろう」
「そうですね。いえ、そうでしょうね」
ふふっとライドウが笑う。


「僕はね、鳴海さんを愛しているのですよ雷堂」
「そうか」
「僕の心は彼に渡したのです。…そう言うと、彼はきっと『身体もだ』と仰るのですけれど」
「そうかも知れぬな」
「僕の生は帝都の為のものです。責務に渡したのです」
「そうであろうな」
「僕の心と、自由な限りの身体は鳴海さんのものです」
「そうか。貴様のものだ、好きに思えば良い」


「それでも、貴方に渡せるものがあって、良かった」

引いていた身体を寄せて距離を詰める。
真直ぐに見詰める。彼の瞳を。そこに映る自分を。


「僕は、鳴海さんの為に死ねないのです」
彼の為に死ねない。
彼の為に死なない。
「それでも僕は、帝都の為に死ぬのです」
彼の為には死ねない。
彼の為には。使命の為の此の生。
「そして僕は、貴方の為に死ねるのです」
貴方の為に、死ねます。
いつか、貴方の命が消える時には。
おそらくそれは、僕の命だから。
いつか、僕の命が消える時にも。

「そうして貴方も、僕の為に死ねるのでしょう」


「そうかも知れぬな」
「僕は僕が嫌いです。…憎い、と言っても良い」
「そうであろうな」
「そして、なによりも僕は僕を愛しています」
「そうか」


貴方のその眼は、僕が見えていますか。
そう言ってふぅわりと微笑う。
雷堂、僕の此の右の眼はね、貴方が見えていないのです。
そう言って真直ぐに見詰める。
以前は見えました。今は見えません。問題はありませんね。
僕の右目は、きっと今、この僕を見詰めているのですよ。

傷のない綺麗な顔で、その眼を細めて、ライドウが微笑う。



「我は、鳴海さんの為に死ねないのだ」
「そうですね」
「それでも我は、帝都の為に死ぬのだ」
「そうでしょうね」
「そして我は、貴様の為に死ねるのだ」


「そうして貴様も、我の為に死ぬのであろう」
「そうして貴方も、僕の為に死ねるのです」





「貴方に、渡せるものがあって、良かった」